不動産経営をされている方は「不動産オーナーは法人化するべき」という話を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
ただしこの話は「誰でも法人化すればいい」というものではありません。
不動産収入が年間1,000万円を超える方に対して(法人化による)節税効果が見込めるため、この条件に当てはまる方は法人化を考えてみるとよいでしょう。
「でも法人化は提出する書類が煩雑で難しいのでは?それにどんな節税効果があるの?」と疑問をおもちの方、このページでは不動産オーナーが法人化することで具体的にどんなメリットがあるのか、その諸手続きについてまとめています。
これから法人化を考えている不動産オーナーは、ぜひ参考にしてくださいね。
「不動産収入が1,000万円を超えると法人化を考えた方がいい」という話の根拠には、日本の税制がもつ特徴があります。
税金は累進課税方式が採用されておりたくさん収入があるほど高い税率が課せられ、税金が高くなるもの。
ところが中小法人の最高税率は23.2%、個人の所得税の最高税率は45%とかなりの開きがあり、日本では個人よりも中小法人が税制上優遇されているのが現実なのです。
個人の所得税は900万円を超えると税率が33%に達し法人の最高税率を軽く超えてしまうため「不動産収入が1,000万円を超えたら法人化するとよい」と言われています。
法人化することにより…
・所得税が節税できる
・必要経費の範囲が広くなりその分節税できる
・損失の繰越や損益通算ができる
・相続税や贈与税の節税になる
法人化すると役員向けの医療保険や定期保険、役員や社長に対して支払った退職金などを必要経費として計上できるので節税効果が見込め、また家族を役員にすることで所得分散でき大きな節税効果が得られます。
個人が所有している財産が多いほど相続税が高くなりますが、法人にある財産を個人が相続することはできません。
そこで個人の財産を「個人」と「法人」に分散させることで個人の財産を減らし相続税を節税することができます。
不動産オーナーが法人化するために必要な手続きには以下のようなものがあります。
・定款の作成…所在地や事業の目的、資本金、法人名、役員などを決める
・定款の認証…設立する会社の本社所在地管轄の公証役場でチェックしてもらう
・登記書類の作成…発起人決議書や取締役就任承諾書、印鑑届書など必要な書類作成
・資本金払い込み…会社の銀行口座に出資金を振り込む
・会社設立登記…法務局に必要書類を提出し登記完了
これらステップはひとつひとつ押さえていけばスムーズに進みますが、仕事が忙しい方は公認会計士や税理士などプロにフォローしてもらう方法もあります。
ただ公認会計士や税理士、行政書士、司法書士など専門家にフォローしてもらうと手数料や料金がかかるため、経費を削減したいなら自力で会社設立を目指すのが一番です。
法人(株式会社)を設立する際に登録免許税や社印作成、定款の認証、行政書士や司法書士等報酬などの費用が約30万円かかり、合同会社設立でも約10万円の費用が必要です。
また個人事業ではかからなかった地方税が発生し、(地域によりますが)たとえ事業が赤字であっても6~7万円の税金が毎年課税されるデメリットもあります。
利益が出ている時期の課税はとにかく、赤字なのに税金を徴収されるのは辛いものです。
従業員5人未満の個人事業であれば社会保険への加入は必要ありませんが、法人化すると社会保険への加入は強制になります。
健康保険料と厚生年金保険料の負担は会社と従業員の折半になりますが、社会保険料の負担額が増加するのは避けられません。
法人化するとどうしても必要になるのが帳簿での管理です。
お小遣い帳のような簡単なものではなく、複式帳簿を使用して必要経費や売り上げを記帳しなければなりませんし、損益計算書や貸借対照表を作成して法人税申告書の作成も必須。
従業員がいれば年末調整もおこなわなければなりません。
法人税申告に関する書類作成を税理士事務所に一任する会社も多いですが、個人事業よりも書類の作成が煩雑になるのでその分料金が高くなってしまいます。
また法人化すると税務署の担当者が定期的に調査に入るため、税務署への対応も必要でこれがかなり厄介です。
「代表者は私だから」といって、会社のお金を勝手に引きだして使うことはできません。
個人事業であれば事業用と個人のお金が一緒になっていてもよいのですが、法人化してしまうと会社のお金は会社のものです。
会社の代表だからといって勝手にお金を使い込むと横領行為になってしまいます。
法人化すると節税できるという大きなメリットがありますが思わぬデメリットもあり、個人事業主から始めた方は意識を変える必要がありそうです。
もし親御さんの不動産を相続するとなると、一体どれだけの相続税が課せられるのでしょうか?
例えば2億円の価値がある不動産をお子さんが一人で相続すると、相続税はなんと4,860万円になり財産の4分の1を失ってしまいます。
もし法人化したなら相続税を大幅にカットできるため、高額な不動産を持つ方はとくに法人化による節税対策を考えるのです。
その対策は以下のようになります。
個人が購入した不動産は賃料が毎月入ることにより、将来多くの相続税がかかってしまいます。
そこで個人が所有する不動産を法人に所有させ賃料を法人がそのまま受けとると、その賃料には個人にかかる「所得税」ではなく「法人税」が課されることに。
法人税の方が所得税より税率が低いため節税効果がありますし、相続の際には会社所有の不動産はあくまでも会社のもの。
会社の資産を個人が相続することはないため、不動産に関する相続税は発生しません。
この「不動産所有方式」が相続税対策としてはもっとも優れています。
ただ不動産を法人に売却するためには、銀行ローンの有無や築年数、不動産物件が戸建てなのかマンションなのか、これら条件で移転のしやすさが変わってきますので注意してください。
銀行ローンが残った不動産物件は担保設定がされているため、銀行の承諾なしに勝手に売買することはできないのです。
「不動産所有方式」は相続税対策として最も優れた効果がありますが、ほかにも不動産管理会社を設立してオーナーが所有する物件の賃料集金の代行や掃除、管理をまかせ、オーナーが不動産会社に管理料を支払う「管理委託方式」。
さらにオーナーが所有する不動産を不動産管理会社が一括して借り上げ、その不動産を入居者に直接貸しだしてオーナー親族に給与を支払う「サブリース方式」などの方法もあります。
ただこれらの方法は不動産の所有者が個人のため、どうしても相続税の問題が発生してしまうのがネックです。
相続税対策のためには早めに法人を立ちあげ、資産を法人へ移動させておくのがベスト。
不動産オーナーでも月に100万円の収入があれば、所得税を節税するために法人化するのがおすすめです。
登記にかかわる経費やその後の法人税申告の手間、経費の増加などデメリットもありますが、社会的な信用が増し相続税対策にもなるため、法人化を検討する価値は十分あります。
会社設立やその後の申告手続きには煩雑な点もあるため、必要に応じてプロ手を借りるのもよいでしょう。