東急電鉄、相鉄グループ、阪急阪神ホールディングス、名古屋鉄道、小田急電鉄など、多くの鉄道会社は不動産部門を設置、または分社化しています。

鉄道会社参加の不動産会社は、郊外駅周辺に住宅地を造成したり、ホテルやマンション、オフィス、大型ショッピングセンターの建設・経営により、グループ全体の売り上げ増加に大きく貢献しているもの事実。

いまや鉄道会社にとって不動産部門は収益を生みだすため、必要不可欠なものとなっています。

「鉄道会社と不動産って、そんなに関係があるの？どうして売り上げにつながるの？」

そんな疑問をおもちの方へ、今回は不動産と鉄道会社の関係性や鉄道会社がどのように不動産を活用して利益をあげているのか、その具体的な内容をまとめています。

ぜひ参考にしてください。

鉄道会社は鉄道を整備・運行し、さまざまな場所に乗客を運ぶのが本来の業務です。

ところが単純に「駅から駅へと乗客を運ぶ」だけではなく、駅の周辺を開発して大型ショッピングモールやオフィス、観光施設、娯楽施設などを整備すればさらに多くの乗客が見込め、収益アップにつながります。

閑散とする郊外駅であっても、その周辺に住宅地を造成し分譲マンションを次々に建設、販売すれば、多くの人たちで賑わい乗客数大幅アップにも貢献。

鉄道会社は「ただ乗客を待っている」だけではなく、乗客が鉄道を使って移動したくなるような魅力的な施設や住宅地、観光地をつくることで増収・増益を実現しており、この「派生需要」を多く創出するために不動産開発部門を分社化、独立させて事業展開をおこなっているのです。

鉄道会社と不動産部門とは密接な関係にあり、両者が二つの輪となって相互に事業展開しているビジネスモデルを「両輪型」と呼びます。

両輪型の色合いが強いのが東急電鉄ですが、このスタイルは鉄道事業を展開することと同時に…

・不動産部門で住宅地造成、分譲マンションを建設

・レジャー施設を駅周辺や郊外に開設する

・大型ショッピングモール開設

・駅周辺にホテル開業

このように不動産を使った事業をつぎつぎに展開します。

沿線や駅の魅力を不動産開発により底上げし、より多くの乗客を取りこんでいくことを事業の中心にすえています。

ポートフォリオ型の不動産開発は従来ある両輪型のビジネスモデルに加え、沿線とは関係ない観光地やレジャー施設にホテルを開業したり、住宅地を開発するなどしてリスク分散させる手法です。

このビジネスモデルは今後、沿線エリアで開発した不動産と非沿線地域で開発した不動産資源を相互に交流させ、ブランドの認知やイメージアップにより相乗効果を狙う方向性へと発展する可能性があります。

鉄道会社の不動産部門では駅周辺に用地を確保し、分譲マンションや住宅を建設・建築して販売しています。

分譲マンションだけではなく賃貸用のマンションも供給しており、これら不動産を供給することで沿線や駅周辺に住む人たちを増やし、鉄道利用を促進させるのが狙い。

鉄道会社が手掛ける分譲マンションは駅から徒歩10分以内の場所に建設する事例が多く、駅への利便性が非常に高くなっています。

物件も通常の分譲マンションと差をつけるべく…

・テラスやルーフバルコニー付き

・全戸南向き、ゆとりある間取り

・駅までフラットで歩きやすい道の確保

など上質な住まいであるのはもちろん、駅までの動線をも考えて住みやすさを追求しています。

分譲マンションを建設・販売するだけではなく、マンション管理会社やアフターサポート専門コールセンターなども設置し、マンション管理ビジネスを展開している会社もあります。

駅周辺の駅ビルを整備、開発することで、駅周辺にオフィスや大型複合商業施設、娯楽施設、ホテルを呼びこみ、より多くの人を駅周辺へと誘導することができます。

鉄道会社が展開する駅ビルや商業施設は駅と一体化、また駅から徒歩圏内にあるなど、駅との利便性を優先させた立地・設計を採用。

鉄道会社が所有する社宅や研修センターなどの跡地を有効利用し、新しい大型商業施設やホテルを開業する、駐車場をつくるなど、積極的に不動産を活用する例もみられます。

将来有望な駅周辺は、さらに大型の投資により駅前の再開発を実行。

再開発は単純に駅ビルや分譲マンションを建設するだけではなく…

・駅前広場の整備　・公園の設置　・駅ビルの整備　・分譲マンションや分譲住宅の建設　・駅前に地域のための防災トイレ、防災倉庫設置　・非常電源の設置（スマートコミュニティ構築）　・津波避難用として駅ビルや分譲マンションの活用

このように防災も意識した街づくりをすすめる鉄道会社もあります。

駅前が美しく、そして快適に便利に生まれ変わると人の流れも大きく変化するもの。

多くの方が駅周辺に集まれば…

・商業施設の売り上げアップ　・分譲マンション・住宅販売での収入アップ　・賃貸マンションや賃貸オフィスの賃料収入アップ　・駅利用による鉄道事業の収益アップ

このような形で多くの収入が鉄道会社に入ってきます。

現在、多くの鉄道会社が駅前などにホテルを開業し営業しています。

では有名な鉄道会社系列ホテルを見ていきましょう。

・プリンスホテル（西武ホールディングス系）　・東急ホテルズ （東急電鉄系）　・東急ステイ（東急不動産系）　・京王プラザホテル　・小田急ホテルズアンドリゾーツ　・ホテルニューグランド（JR東日本の関連会社）　・アソシアホテルズ&リゾーツ （JR東海）　・ヴィアイン （JR西日本系）　・ホテルメッツチェーン（JR東日本ホテルズ）

一度は名前を聞いたことのある有名ホテル、これらホテルに宿泊した経験のある方も多数いらっしゃるのではないでしょうか？

鉄道会社が運営するホテルのなかには駅から徒歩圏内にあるのはもちろん、夜行列車の個室をイメージした個性的なホテルや人気キャラクターを室内全面にあしらった可愛いホテル、最高級ベッドを設置したラグジュアリーホテル、宿泊に特化したお手頃ホテルなど、そのバリエーションはさまざま。

ホテル経営は鉄道会社だけではなく、航空会社系列・外資系チェーンホテル・不動産会社系列・ビジネスホテル系など多くの業者が入り乱れ、生き残りをかけて事業を展開しています。

鉄道会社がホテル事業を多方面に展開しているのはなぜなのでしょうか？

その理由は…

・自社所有地の有効活用のため

・地盤エリア以外での業況拡大のため（知名度アップ・イメージアップ）

・これから顕在化する沿線人口減少をカバーするため

・インバウンド需要を見越して

・堅実な経営をおこなう鉄道会社なら、銀行も融資しやすい

外国人観光客の増加によりインバウンド需要を見越して、鉄道会社が観光地につぎつぎとホテルを建設しています。

人口減少により今後鉄道事業の売り上げが縮小することもあり、より収益をあげやすいホテル事業へと積極的に参入するケースも少なくありません。

鉄道会社がホテルの新規建設に乗りだすなか、ホテル事業とは距離をとりオフィスや大型商業地建設に力をいれる鉄道会社も。

「ホテル運営は長期的にみると売り上げに波があり、安定した収益が期待できない」という意見もあります。

中長期的なリスクに対するポートフォリオを重視するか、積極的に好調分野に投資するか、各鉄道会社の方向性がこれから一層明確になりそうです。

鉄道会社は乗客を乗せて駅から駅を移動するだけではなく、新しい付加価値や魅力をもった施設や住宅を創生し、そこへ人々をどんどん誘導することで利益をあげるビジネスモデルを構築。

いまや鉄道会社と不動産分野は、切っても切れない関係となりました。

今後も鉄道会社と不動産分野は連携して発展していくものと予想されますが、これからは自然エネルギーを活用したエコ施設、災害時に強い駅前再開発など、自然環境や災害に配慮したニーズに対応するなど、さらなる進化が期待されます。